新国立劇場ダンス公演 JAPON dance project TOKYO 2014 CLOUD/CROWD

『CLOUD/CROWD』の初日を観た(8月30日 17時/新国立中劇場)。といっても二日しかなかったのだが。

振付・出演(JAPON dance project メイン・メンバー):遠藤康行(フランス国立マルセイユ・バレエ)小池ミモザモナコ公国モンテカルロ・バレエ)青木尚哉(フリー)柳本雅寛(フリー)児玉北斗(スウェーデン王立バレエ)
特別出演:小野絢子(新国立劇場バレエ団)八幡顕光(新国立劇場バレエ団)米沢 唯(新国立劇場バレエ団)小㞍健太(フリー)堀田千晶(ヨーテボリオペラ・ダンスカンパニー)加藤三希央モナコ公国モンテカルロ・バレエ)
美術:針生 康
音楽:Davy Bergier
衣装:宗 明美
照明:足立 恒
舞台監督:森岡
主催:新国立劇場

舞台に新鮮な喜びが溢れていた。1人でなくメンバー5人が共同で振付したためか。特に目新しい踊りや動きがあるわけではない。所属の異なる11人のダンサーが共同で作品を創り、踊る。きっとよい出会いがあったのだろう。
舞台の上部から絨毯のように嵩高で厚ぼったい雲(クラウド)が垂れ下がっている。奥には跳び箱の基部に似た台が、下手は一段ぐらい、中央から上手へは数段に高く積まれ、山脈のように見える。その背後の〝水平線〟から時おり光が漏れる。この〝山脈〟に青木尚哉が現れて、舞台が始まる。手前に佇むのは米沢唯か。
前半の衣裳はみな白い薄手のもの。バロック音楽での男女のデュエット。まず米沢と小尻健太が踊る。米沢の優美さ。小尻の力強さ。続いて小野絢子と八幡顕光。さらに小池ミモザ加藤三希央。バレエの喜び。無音での堀田千晶と小尻の踊りは強度が高い。
心臓の鼓動を思わせるリズムに音が重なりクレッシェンドしていく。薄闇の中、次第に群衆(クラウド)のように増えるダンサー・・・。照明が作る縦一本の道にミモザが再登場。同様の趣向で他の女性ダンサーたちも。そのあとポアントで滑る動きが面白い。ミモザはさすがに大胆。水面を滑る水澄ましのよう。見ていて気持ちが好い。
男だけの力強い踊り。全員での踊り。やがて例の雲が降りてきて、一人の男が後ろ向きに出てくる。八幡らしい。これで一部が終わる。客電が点いて休憩に入ると、ヘルメットを被ったスタッフ数人がセットを改め始める。その間、後ろを向いたままの八幡もヘルメットを被り、中央部に留まる。水を飲んだり、ストレッチをしたり。
休憩が終わると、雲の絨毯が緞帳のように下まで降ろされ、奥の舞台を完全に遮っている。手前下手にチェロの演奏台か指揮台のような台座がいくつか置かれ、上手の台に少し前から柳本雅寛が立っている。前半とは打って変わり黒のジャケットとズボン姿。挨拶代わりにハードな音楽で切れ味鋭い踊りを見せる。動きを止めると音楽もぴたりと止む。まるで彼の動きが音楽を生み出すかのよう。その後、後ろ向きの八幡にちょっかいを出す。「もう済んだから」云々と退場を促すのだが、柳本が八幡の身体に触ると瞬時にバレエ音楽が鳴る。離すと止む。それを何度か繰り返す。1〜2秒毎にクラシックバレエ(『ジゼル』も含む)の音楽が断片的に鳴り響いた後、バレエ歩きで下手へ戻っていく八幡。かなり受けた。これを機にバレエの時間は終わり、(コンテンポラリー)ダンスの時間が始まった。
青木が緞帳の下から転がり出てくる。やはり黒の上下だが、首はノーネクタイ。輪っかになった黒タイを背後から渡すミモザ。青木は踊りの巧さはもちろん、コメディアンの才がある。中央奥で遠藤康行が料理人(寿司職人)を思わせる上半身の素早い踊りを見せる。するとメインメンバーが次々にあとに続く。下手の台に座るミモザの方を見ると、彼女も同じ動きをしている。男たちは皆キレキレだが、柳本の迫力は半端でない。
印象に残ったシーンがある。ダンサーたちは例の台を下手奥にそれぞれ無造作に積み上げ、上手手前の一つの台に5人全員が佇む。そして下手の〝廃墟〟に視線を向ける。音楽はベッリーニのオペラ『ノルマ』から「清らかな女神よ」(ソプラノはマリア・カラスだと思う)。この間、雲の緞帳は火炎を思わせるオレンジ色に変わる。災厄に見舞われた故国を遠い異郷からただ見守るしかなかった彼らの心情が、見事に形象化された(オペラの内容とは異なるが、アリアの情調はよく合っていた)。
児玉北斗が中央の台に立ち、両手を腰に当て上半身を後ろに反らして日本語で何かを叫ぶ。すると、下手に座るミモザがフランス語に通訳する。めんどくさい日本語には、涼しい顔でやり過ごす。面白い。
青木が再度転がり出てきて、ぼやきながら床で激しくのたうち回る動きを続ける(背中は大丈夫なのか?)。
最後は5人のメンバーが舞台のあちこちで一様に上手を向いてV字バランスする。しばらくすると中ほどの雲の緞帳が上がり、奥の舞台でも同じ方向でV字バランスする6人のゲストダンサーたちが見える。なんかよい。手前5人のなかにはぴくぴく、がくがくする者も、ミモザなどは手を添えていた(激しく踊った直後だから無理もない。それとも・・・?)。すばらしいエンディングだった。
カーテンコールは喜びに溢れていた。とても気持ちのよい公演。ぜひ今後も続けてほしい。