パリ・オペラ座バレエ団『椿姫』初日/情感はほとんど湧かず

Dランクの4階右バルコニー三列目から初日を観た(3月20日 18:30/東京文化会館)。

『椿姫』プロローグ付 全3幕(2006年6月20日パリ・オペラ座初演)


音楽:フレデリック・ショパン
振付・演出:ジョン・ノイマイヤー(1978年)
美術・衣装:ユルゲン・ローゼ
照明:ロルフ・ヴァルター


主な配役

マルグリット:オレリー・デュポン
アルマン:エルヴェ・モロー
デュヴァル氏(アルマンの父):ミカエル・ドナール(ゲスト・エトワール)

マノン・レスコー:エヴ・グリンツテイン
デ・グリュー:クリストフ・デュケンヌ

プリュダンス:ヴァランティーヌ・コラサント
ガストン:ヴァンサン・シャイエ
オランプ:レオノール・ボラック
公爵:ローラン・ノヴィ
N伯爵:シモン・ヴァラストロ
ナニーナ(マルグリットの侍女):クリスティーヌ・ペルツェー


演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
指揮:ジェームズ・タグル
ピアノ:エマニュエル・ストロセール、フレデリック・ヴェス=クニテール

全幕見たのは初めて。プロローグの競売シーンや、アルマンの父親をオケピット下手の袖に現前させたり(後年のヴィリー・デッカーによるオペラ演出を想起)、マノンやレスコーを度々登場させミラーダンスを踊らせる等、演出は面白い。基本的にデュマ・フィスの原作小説に忠実な作り。ただし一幕後半は少し単調でだれる(周囲に寝ている人が数名)。
第二幕はバンダのピアノ伴奏(フレデリック・ヴェス=クニテール)でディヴェルティスマン。侍女ナニーナ(クリスティーヌ・ペルツェー)の「あたし踊れない」という踊りがいい。アルマンの父(ミカエル・ドナール)とマルグリット(オレリー・デュポン)のデュエット。父は最初彼女の手に口づけするのを拒むが、後には娘のように抱っこする。唯一こちらの感情が動いたシークエンス。
第三幕のパ・ド・ドゥでは特に何の情感も湧いてこない(先日ABTのガラで見たケントとゴメスにはまだ何かがあった)。マルグリットは病を押して劇場へ行きバレエ『マノン』を観る。沼地のシーン。忍び寄る死を暗示。ラストは、下手奥で手紙を書いているマルグリットと、その文面を読んでいる上手手前のアルマン。やがて、前者は倒れ、幕。たしかに原作には近いのだが、これで終わり? という感じ。
ほぼ三時間の舞台でバレエ(踊り)の快楽を感じることは一度もなかった。演出の妙味はあるが、平凡なアリアしかないオペラのような印象。マノンとレスコーのミラーダンスも面白い趣向だが、舞台効果としてはどうなのか。マルグリットのオレリー・デュポンは(予想どおり)まったく情感が出ない。アルマンのエルヴェ・モローはかたちはよいが、ほかになにもない。パ・ド・ドゥなどでは息が上がり、万全ではないように見えた。別のペアでは作品の印象も違うのだろうか。
エマニュエル・ストロセールのピアノ(オケピット)が素晴らしい。若手のフレデリック・ヴェス=クニテールは前半はステージ上のピアノを、第三幕はストロセールと交替しピットで弾いた。後者の演奏は華麗だが、憂愁の深さときめ細かさは前者よりいくぶん軽減した。オケは金管が少し疲れ気味(というか、インターバルがかなり長いため同情の余地はある)。
カーテンコールの間合いはじつに気持ちがよい。日本の舞台関係者は見習って欲しい。