ARCHITANZ 2014 3月公演

アーキタンツの3月公演プログラムを観た(3月21日14時/新国立小劇場)。

『Boy Story』
振付:ユーリ・ン Yuri Ng
出演:香港バレエ団 The Hong Kong Ballet

自伝的な作品。中国に、アジアに、つまり非西洋圏に生まれながら、西洋伝来の芸術に魅せられた青年に共通する、普遍的な意味合いを感じた。自国の伝統文化と他国から流入する文化の狭間で揺れ動くが、最終的には非西洋圏の出自を有する者にしか創れない独自の作風をものする。中国(アジア)と西洋の異なる文化の融合。自分の立場を誤魔化さず誠実に思考(試行)して創られた名品。
上手寄りにチェロの演奏用に似た台があり、中央から下手にかけてバーが設置され、後者は鉄棒のようにも見える。上手の台に京劇を思わせる中国の伝統的な衣裳を着た男(顔は前垂れで見えない)が立つ。大きな歓声(録音)が聞こえてくる。なかなか止まない。やがて男が下手へ去ると、入れ替わるように海パン姿の頼りなげな男が台に乗り、飛び込みを思わせる構えを見せる。そういえば飛込競技は中国のお家芸だ。音楽は、ハワイアンギターの演奏。「アマポーラ」のあと、ギターが持ち込まれると、加山雄三の「旅人よ」が流れる。さらにブラザーズ・フォーの「Five Hundred Miles」。懐かしい。この振付家は同世代なのか。当時香港は欧米のみならず日本からもさまざまな文化が流入していたのだろう。再度伝統的な服装の男が登場し、その衣裳を脱ぐと中から黒のスーツを着込んだ男が現れ、バーレッスンしながら、踊る。少し太めな体形に見えるが、踊りの強度が高く優雅さもあり、素晴らしい。リ・ジャボー Li Jia-Bo か。さらに同じ黒服を着た4名の男が登場し、中国風の音楽に合わせ、太極拳とバレエを融合したような振りの踊りを力強く披露する。
作品の構造は、ベートーヴェンの第九に似ている。日本でも何度か上演されたらしいが、初めて見た。当時ユーリ・ンのアフタートークを聴いた知人の話では、あの伝統的な服は婚礼衣裳らしい。京劇の衣裳ではないのか。いずれにせよ、かなりの力量をもった振付家だ。香港バレエ団の男性ダンサーたちもよい。特にリ・ジャボーは質が高い。

『The Second Symphony』
振付:ウヴェ・ショルツ Uwe Scholz
出演:酒井はな、西田佑子、アレクサンダー・ザイツェフ、ヤロスラフ・サレンコ
使用楽曲:ロベルト・シューマン 交響曲第2番ハ長調作品61[から第3楽章 Adagio espressivo

フライヤーもプログラムも全編上演するかのような記述だが、実際は緩徐楽章(第3楽章)のみ。〝『The Second Symphony』より第3楽章アダージョ〟等とすべきだった。二つのペアがパートナーをリフトしたまま互いに絡むところ(ちょうどプログラムに写真が載っている)は面白い。

『CASTRATI』
振付:ナチョ・ドゥアト Nacho Duato
音楽:アントニオ・ヴィヴァルディ、カール・ジェンキンス
出演:香港バレエ団 The Hong Kong Ballet

ジェンキンスの「パラディオ」をはじめ、ヴィヴァルディの宗教音楽(カウンターテナー)やフルート(フラウト・トラヴェルソ)コンチェルト「夜」等が流れるなか、暴走族のような衣裳の男たちが、マッチョな踊りを繰り広げる。タイトル(カストラートたち)は、天使の歌声を保持するため、去勢された男たち。ただし踊りのなかみは、ひとりの若者(少年)が不本意にも先輩のカストラートたちの集団(族)に加入させられるイニシエーションの儀式のようにも見えた。処女が生贄になる「春の祭典」の男性版? ダンサーたちは力強い。

『Mopey』
振付:マルコ・ゲッケ Marco Goecke
音楽:カール・フィリップエマヌエル・バッハ[チェロ協奏曲 イ長調 Wq. 172, H. 439から第3楽章 Allegro assai]
出演:酒井はな

J. S. バッハの息子エマヌエルのチェロ・コンチェルトの快活な音楽に乗って、酒井が踊る。上半身。背中。女性が本作を踊るのは初めてらしい。悪くないが、2月の「火の鳥」を見る限り、もっと強度が欲しい気も。「火の鳥」はテューズリーも酒井も素晴らしかったが、あの域にはいま一歩か。