新国立劇場バレエ『白鳥の湖』2014/三日目/バレエの照明

遅まきながら『白鳥の湖』三日目のメモを簡単に(2月21日 19時/新国立劇場オペラハウス)。
堀口純は姿形は白鳥らしいが、いかにも不安定で特に脚が心許ない。その懸念は残念ながら第三幕で現実化した。アダージョでは、黒鳥オデットの強さをなんとか表現しようとする。だが、その思いとは裏腹にぐらつく身体が、翻弄されるはずのジークフリート(トレウバエフ)に依存し支えられるありようを顕在化してしまう。そこまではよい。決定的なのは、フェッテで踊りと表情がひどく歪み、フィクション(物語)に大きくひびが入ってしまったこと。指揮者バクランは、二幕では踊りの不安定さに合わせたテンポでそれなりに対応したが、ここではなぜか容赦のないインテンポ。配慮があってもよかった(カーテンコールで左バルコニーから一声ブーイングが飛んだのは多分そのせい)。それにしても、あのフェッテを見る限り今回の主役起用には疑問符がつく。本人はもとより、チケットを買った観客には不幸なことだといわざるをえない。
王子役のトレウバエフは、キャラクターでの〝かゆいところに手が届く踊り〟とは打って変わった平凡さ。なぜなのか(明らかなサポート要員としてのキャスティングが動機付けに影響を与えたのか)。道化の小野寺雄は芝居も踊りも生き生きとして好感を持った。キャラクターでは、スペインの踊りに見応えあり。特に林田翔平はスパニッシュのツボを押さえた小気味のよい踊り。そういえば「バレエ・アステラス☆2013」の『FANDANGOS Y BULERIAS』でフラメンコの味を濃厚に出していたのは林田ではないか。東京交響楽団は疲れからかトランペット(たぶん「農民の踊り」や「ナポリ」でソロを吹くPistoniではなくTrombeの方)のフライングをはじめいくつかミスが出た。
(長田佳世&奥村康祐の最終日はBCJの定演と重なり残念。見た知人によればとてもよかったらしい。よほど柏崎へ行こうかとも思ったが、諸般の事情で断念。)
この版の初演時から気になっていることのひとつに照明がある。第二幕は余りに暗い。ロートバルトの動きはほとんど見えない(この日は輪島拓也)。これではダンサーが気の毒だ。『パゴダの王子』もそう。照明のS氏は、暗ければ暗いほど芸術的だと勘違いしていないか。演劇やオペラならまだしも、バレエでは、まずなによりダンサーの身体が、その腕や脚の微妙な動きがしっかり見えること。これが最低条件だろう。物理的に暗くしなくとも〝暗さ〟を表現するのがプロの照明の仕事ではないか。とりわけバレエの舞台ではそういえる。