新日本フィル#520定期演奏会/全身音楽のスピノジ/栗友会の巧みな歌芝居

新日本フィルハーモニー交響楽団の第518回定演(サントリーホール・シリーズ)を聴いた(2月27日 19:15/サントリーホール)。

ビゼー作曲 歌劇『カルメン』より
第1幕 前奏曲、広場を人々が通る、タバコ女工達の合唱
第2幕間奏曲、第3幕間奏曲、第4幕 闘牛士の行進と合唱


指揮:ジャン=クリストフ・スピノ
合唱:栗友会合唱団
合唱指揮:栗山文昭

前奏曲が始まったとたん、頬が緩んだ。この指揮者は全身が音楽だ。初めて聴いたときもそう(ドボルザークの新世界等/2012年)。指揮というより、身体の動きすべてがダンスのようで、そこから発散する音楽性が即座にオケやコーラスに伝わっていく。前回同様クライバーを想起。コーラスははじめは男性群が両袖から無造作にかつ雑然と登場し、広場の歌をうたう。タバコ女工達は両袖のみならず、客席からも現れ、壇上へ。第二幕の間奏曲では床にしゃがみ、牧歌的な音楽に聴き入っている。そのフルート(白尾彰)の響きに落涙。第四幕 闘牛士の行進では、合唱団員の一女性がその場で踊り始める。やがて男が進み出て相手をする。素晴らしい演出(栗山文昭? スピノジ?)。終曲後、スピノジは、わざわざステージ後方へ赴きこの女性ダンサーにキスをした。栗友会は、こうした歌芝居が実にうまい。旧東京音楽学校奏楽堂で戦時日本の「決戦楽曲」を演劇仕立てで歌った「再現演奏会」は忘れがたい(2008年)。

ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」、ドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」、ラヴェル「ラ・ヴァルス」、ドビュッシー/カプレ編「ベルガマスク組曲」より 月の光、ラヴェルボレロ

どれもよかったが、特に「ラ・ヴァルス」では、スピノジの動きは指揮というよりフェンシングに見えた。また、最後の「ボレロ」は、速めのテンポで、次第にその律動が二階後方の客席にも波状伝播し、足が勝手に動いて拍子を取りそうになる。驚いた。こんなことは初めてだ。ソロはどのパートもよかったが、特に箱山芳樹のトロンボーンは官能的で自由。素晴らしい。
オケ(コンマス:豊嶋泰嗣)は、繊細かつしなやかなでカラフルな音を鳴らしていた。