新国立劇場バレエ「DANCE to the Future 〜Second Steps 〜」/ダンサーたちに生きる糧を与える企画

新国立劇場バレエ団による「DANCE to the Future 〜Second Steps 〜」の初日を観た(12月7日 14時/新国立小劇場)。
バレエ団ダンサーたちの振付による「新しいダンス作品集」。たいへん面白かった。

監修・芸術監督:デヴィッド・ビントレー
照明:鈴木武
音響:黒野
舞台監督:森岡
振付:マイレン・トレウバエフ、貝川鐵夫、福田圭吾、小笠原一真、アンダーシュ・ハンマル、広瀬碧、宝満直也、今井奈穂

<第1部>
①「フォリア」Folia
振付:貝川鐵夫
音楽:アルカンジェロ・コレッリ「ラ・フォリア」
出演:小野絢子、福岡雄大、堀口純、輪島拓也、田中俊太朗、川口 藍

バロック期のヴァイオリン・ソナタに振り付けた本格的な舞踊作品。間近でダンスを見る喜びを満喫した。音楽への強い志向(嗜好)を感じさせる。貝川自身ヴァイオリンを弾くのではなかったか。無音での小野絢子のソロから始まり、他5人のソロ、対舞、群舞等々と次々に展開する。意味を外から持ち込むのではない。楽曲への深い理解と解釈から紡ぎ出された振付は、そこから自ずとドラマ(意味)が立ち上がる。衣裳は青色のTシャツに黒のフレアロングスカート(男は黒のパンツ)。照明も含め、センスがよい。小野の端正できめ細かい踊り、音楽の趣きをよく感取した堀口。輪島の情感あふれる対話。キレのよい福岡。川口と田中の洗練された動き。ダンサーたちの質の高さが「フォリア」をいっそう輝かせた。

②「SWAN」
音楽:ジョヴァンニ・バティスタ・ヴィターリ(?)「シャコンヌ ト短調
振付:マイレン・トレウバエフ
出演:小野寺 雄

貝川作品同様、トレウバエフもバロック期のヴァイオリン曲に振り付けている。通奏低音にはオルガンが入っていたか。小野寺のソロだが、音楽と動きとドラマの一体性が感じられる。作品を完結させる力量は見事。
シャコンヌ ト短調」の作曲者は上記のジョヴァンニ・バティスタ・ヴィターリではなく、その長男トマゾ・アントニオ・ヴィターリではないか。

③「春」Spring
音楽:ヤン・ティルセン「Deja Loin」
振付:広瀬 碧
出演:宇賀大将、奥田花純、林田翔平、広瀬 碧

楽器はマンドリン? 民族的な味わいの音楽。習作だが、春を感じさせる素直な作品。

④「Calma」
振付:今井奈穂
音楽:吉田 靖「Octave of Leaves」、ピョートル・チャイコフスキー「無言歌 Op. 2, No. 3」
出演:今井奈穂

振付けた本人のソロ。横からの照明。雪を踏みしめる足音。不安。一転して、チャイコフスキーの明るいピアノ曲に見合った踊り。若い女性の思いを文学的に〝表現〟しようとした作品。その意味で、創作のプロセスが貝川やトレウバエフ作品とは異なると感じさせ、興味深い。

⑤「Chemical Reaction」
振付:小笠原一真
音楽:U2「約束の地」
湯川麻美子、丸尾孝子、輪島拓也、中田実里、原 健太

サイケな柄のレオタード姿での、妖しい踊り。ロックミュージック。編成は「フォリア」に近いが、テイストは対照的。野性味。今回、輪島と丸尾は引っ張りだこか。

<第2部>
⑥「ONE」
振付:宝満直也
音楽:高木正勝「One by one by one」、マックス・リヒター「A Lovers Complaint」
出演:宝満直也

振付した本人のソロ。コンテへの強い意欲が感じられる。そうとう苦労して作ったのだろう。が、自分が踊ると、「あるべき踊り」より「踊りたい踊り」の方に引っ張られないか。

⑦「The Celebrities, Part VI: The Post, Break-Up Depression of the Baroque Peacocks」バロック孔雀の乖離後の憂鬱
振付:アンダーシュ・ハンマル
音楽:ドミートリー・ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲 第11番 ヘ短調
出演:奥村康祐、丸尾孝子、大和雅美

クラシカルな時代とは異なる、ざらついた現代の感触。コミカルな味もある。ちょっと『カルミナ・ブラーナ』のローストスワンを思い出した。が、こっちはピーコックだ。独自の、明確なヴィジョンの持ち主なのだろう。そのヴィジョンに忠実に創っていると感じさせる。ひとつの世界がある。そうか、ハンマルはマッツ・エックと同じスウェーデン人だったか。

⑧「球とピンとボクら...。」Ball, pin, and Us…
振付:宝満直也
音楽:レーサーX「テクニカル・ヂフィカルティーズ」
出演:小柴富久修、宝満直也

赤帽に赤パンを穿いた二人がコミカルに絡み合い、踊る。青木尚哉と柳本雅寛のコンビに似たテイストではあるが、面白い。ただ、なぜボーリングに小学生を想わせるコスチュームなのか。

⑨「Side Effect」
振付:福田圭吾
音楽:ロバート・フッド「Side Effect」
出演:八幡顕光、福田圭吾、五月女 遥、高橋一輝

複雑な動きを複数のダンサーがスピーディにキレキレで絡み、踊る。いつもは道化役の〝ライバル同士〟が一緒に。なんかよい。みんなうまいが、五月女の信じがたい動きに〝キレ〟という語は似合わない。彼女の神経は音源と見えない線で繋がっているのか。福田の振付は職人芸。
素晴らしい企画。自分で創れば、他人の作品を踊るさいも解釈等がいっそう深まるだろう。だが、なにより、ビントレーはダンサーたちのこれからの人生に、〝振付〟という選択肢があることを身体で覚えさせたかったのではないか。そうして、彼/彼女らに〝生きる糧〟を与えようとした。監修者(教える側)が立っているのと同じ地平に団員たち(教わる側)を立たせること。真の教育とは本来そうしたものだが、深い愛情なしに出来ることではない。このプロジェクトをずっと続けていけば、数年後、数十年後にここから海外へ〝売れる作品〟が生まれるかも知れない。ビントレー退任後もなんとか継続してほしい。