サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ No.36 テーマ作曲家〈細川俊夫〉管弦楽公演

9月7日に書いたような経緯で(ブリテン生誕100年 第529回 読響定演/意欲的なプログラム/災厄と芸術 - 劇場文化のフィールドワークサントリー財団によるサマーフェス、細川俊夫管弦楽作品を中心とした公演を聴くことができた(9月5日19時/サントリーホール)。
断片的に書いたまま下書き欄に放置していた。遅ればせながらアップする。

サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ No.36(監修:細川俊夫)Suntory Hall International Program for Music Composition No. 36 Artistic Director: Toshio Hosokawa
テーマ作曲家〈細川俊夫〉Theme Composer 〈Toshio Hosokawa〉管弦楽 Orchestral Works
指揮:準メルクル Jun Märkl
ソプラノ・指揮(リゲティ作品):バーバラ・ハニンガン Barbara Hanningan
トランペット:ジェロエン・ベルヴェルツ Jeroen Berwaerts
チェロ:多井智紀 Tomoaki Tai
管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団 Tokyo Philharmonic Orchestra

フランチェスコ・フィリデイ(1973-):全ての愛の身振り(2009/2011) 改訂版初演
Francesco Filidei:Ogni gesto d’amore per violoncello e orchestra, Revised Version Premiere

奏者たちが楽譜の頁をめくる音も音楽の一部。動物を擬人化し、その喚き声が聞こえてくるような。

細川俊夫(1955-):松風のアリアーオペラ『松風』よりー(2010/2013)改訂版初演
Toshio Hosokawa:Aria for Matsukaze from the opera Matsukaze, Revised Version Premiere

今回は「村雨のパートはトランペット独奏(ジェロエン・ベルヴェルツ)が受け持ち、本来はコーラス、僧侶も入るオリジナルなスコアをオーケストラが受け持ち、松風(バーバラ・ハニンガン)だけのアリアに編曲した」もの。波の音、風の音。自然のざわめきのなかで、立ち現れる人間の業。『コレオグラフィッシュ・オペラ』といわれる本作の全曲版をぜひ日本でも上演して欲しい。

サントリーホール委嘱]Commissioned by Suntory Hall
細川俊夫:新作トランペット協奏曲(2013) 世界初演
Toshio Hosokawa:Concerto for trumpet and orchestra, World Premiere

自然(オーケストラ)と人間/シャーマン(トランペット)のコレスポンデンス。謡のような、尺八のような。トランペットのジェロエン・ベルヴェルツがマウスピースを外し、管に直接口をつけて〝うたう〟。面白い。〝うたい〟ながら管から口を外し、再度マウスピースをつけて、吹く。当然、そのプロセスには、管もマウスピースもつけないで文字どおり歌う瞬間がある。会場からは笑い声も。細川氏がプレトークでベルヴェルツは歌もたいへん巧いと言っていた。タムタムが鼓のような感触を出す。

ジェルジ・リゲティ(1923-2006):ミステリーズ・オブ・ザ・マカーブル(1974-77/1992) 英語版
György Ligeti: Mysteries of the Macabre

バーバラ・ハニンガンがルルみたいな出で立ちで上手から登場。指揮しながら、訳の分からない歌詞を歌う。その音楽もルルのパートを狂気化したような感じ。変拍子。突然、コンマスの荒井英治が立ち上がり、「何が起こっているんだ!」と叫ぶ。他の団員も声を発したり、飛び上がったり。難しい変拍子を巧みに振りつつ、絶叫のような高音の旋律(?)を歌う。次第に、ドレスからはみ出したハンニガンの背中と首や胸元がどんどん朱くなっていった。ちょっと怖いような、すごいものを見/聴いた。細川氏に感謝。
「自分はオペラ作曲家だと思っている」というプレトークでの細川氏の言葉が印象に残った。氏にはぜひ日本語のオペラを書いて欲しい[追記 昨年、万葉集に曲を付けたソプラノとハープのための『恋歌(Renka) I」を聴いたが、歌会始での披講のような感触があり日本的な味と素朴さのなかに熱ときらめきを感じさせる素晴らしい作品だった(平松英子のソプラノ、吉野直子のハープ)]。そのためにはこの国の誰か(どこか)が細川氏にオペラを委嘱しなければならない。新国立劇場が世界に通用する自前のレパートリーを持ちたいなら、細川俊夫にオペラ作品を委嘱すべきだ。