新国立劇場 演劇『OPUS/作品』2013/2014シーズン開幕

昨夜『OPUS/作品』の初日を観た(9月10日 19時/新国立小劇場)。
新国立劇場の2013/2014シーズンは演劇部門で開幕した。本作はシリーズ企画「Try・Angle –三人の演出家の視点 –」の第一弾。

【作】マイケル・ホリンガー
【翻訳】平川大作
【演出】小川絵梨子


【出演】
 エリオット 第一ヴァイオリン:段田安則
 アラン 第二ヴァイオリン:相島一之
 ドリアン ヴィオラ:加藤虎之介
 カール チェロ:近藤芳正
 グレイス ヴィオラ:伊勢佳世


【美術】二村周作
【照明】松本大
【音響】秦大介
【衣裳】ゴウダアツコ
【ヘアメイク】川端富生
【演出助手】渡邊千穂
【舞台監督】白石英

四方から観客席に囲まれた舞台には、木製の椅子四脚と譜面台があるだけ。あとは出入り口を示すフレームが二カ所設置されている。
ある弦楽四重奏団ホワイトハウスで演奏会を開くことになる。その矢先、天才肌のヴィオラ(本来はヴァイオリン)奏者ドリアン(加藤虎之介)が「一線を越えた」ため、解雇される。代わりに女性ヴィオラ奏者グレイス(伊勢佳世)が採用され、カルテットは演奏会に向けて、それぞれの自宅でリハーサルを重ねていく。曲目は、彼らがベートーヴェンの四重奏曲で唯一録音し残した〝難曲〟第14番 作品131。練習するなか、自分を棚に上げ、他人にやたらと注文をつけるエリオットの「不安定さ」が目立ち始める。そうした現在の時間軸に、エリオット(段田安則)とドリアンの〝親密な〟過去の遣り取り等が巧みに織り込まれ、なぜドリアンが解雇されたのか明らかにされる。
ホワイトハウスでのコンサートは成功裏に終了。が、その楽屋にドリアンが現れ、すったもんだの末、ドリアンが第一ヴァイオリンを務め、エリオットがカルテットから弾き出されることになる。どのみち二人とも「不安定」(クレイジー)なら、普通=凡庸(エリオット)より天才(ドリアン)の方がカルテットの音楽に資するから、という訳だ。芸術の世界では、たとえ不安定で、非協調的で、反社会的で、クレイジーでも、並外れた才能さえあれば、受け入れられ、評価される。
本来は接点がないはずのグレイスとドリアンをオーケストラのオーディションで出会わせる趣向がよい。幕切れでのどんでん返しの伏線にもなっている。そこで、カールがヴァイオリンを叩き壊すシーンは、ちょっと衝撃的。余命が限られていることを知ったカールは、この世には高価なヴァイオリンなどよりずっと大事なもの(こと)がある、そう言いたかったのか。
役者はみな巧いし、ユーモアもあった。楽器の構え方も思いのほか堂に入っており、違和感はなかった。伊勢佳世は初めて見たが[訂正:初めてではなく、2005年シアタートラムの『ソウル市民』で見ていた]、演技が自然で姿も好いし、とりわけヴィオラ演奏の姿勢がじつに様になっていた。経験があるのかと思わせるほど。加藤虎之介はドリアンが適役だったかどうか。
演出家の小川絵梨子は、各人物の個性が際立つよう巧みに方向付けていたと思う。場面転換も軽快(音楽的)でリズムがあった。
若手の演出家に機会を与える今回の企画はいいと思う。ただ、新国立劇場のシーズン幕開けに相応しい作品かどうかは議論の余地があるかも知れない。数日まえ三好十郎作『冒した者』の素晴らしい舞台を観ただけに、余計そう感じた。