新国立劇場 演劇『効率学のススメ The Opportunity of Efficiency』 舞台の出来は微温的/企画の当否は数値で測るな

アラン・ハリスの『効率学のススメ』を観た(4月10日/新国立小劇場)。
「人生は数値で測ることができるのか。」(フライヤー)。「効率性」や「合理化」の名の下に、真っ先に切り捨てられてきたのは演劇を含む芸術文化そのものだ。特にこの国ではそういえる。そんな風潮に抗うヒントを求めて劇場へ足を運んでみた。

【作】アラン・ハリス Alan Harris
【翻訳】長島 確
【演出】ジョン・E・マグラー John E. McGrath
【美術】二村周作
【照明】小川幾雄
【音楽】後藤浩明
【音響】加藤 温
【衣裳】伊藤早苗
【ヘアメイク】川端富生
【映像】冨田中理
【舞台監督】大垣敏朗
【協力】ナショナル・シアター・ウェールズ/ブリティッシュ・カウンシル
【キャスト】豊原功補(ケン・ローマックス)/宮本裕子(イフィ・スコット)/田島優成(ジャスパー・ハーディ)/渋谷はるか(ジェニファ・フィールド)/田島令子(グラント夫人)/中嶋しゅう(グラント氏)

製薬会社の研究室が舞台。リーダーのイフィ(宮本裕子)は放射線治療の副作用を軽減する新薬の開発に成功。そこへ研究開発の合理化を進めるべくビジネス・アナリストのケン・ローマックス(豊原功補)が送り込まれると、所内は疑心暗鬼になり・・・。
観劇後の印象は生温い。其処此処にユーモアを盛り込んでいるのは分かるが、さほど笑えない。彼我の文化の違いか。なにより、二時間ほどドラマが進行した挙げ句、提示されるオチがあまりに微温的。たとえば、「10点満点で9点」のイケメン研究員ジャスパー・ハーディ(田島優成)は意中の女性が「6.5点」の不機嫌な研究員ジェニファ・フィールド(渋谷はるか)だった、とか、アナリストのケンが調査の対象であるイフィと恋仲になる、とか、ケンが「ブラウンペーパー分析」を駆使し、出した結論が上司のグラント氏は極めて非効率的であるがゆえに、かえって配下のチームワークがよくなった等々。残念ながらこうした展開や結論にはなんの新味も驚きもないし、「合理化」や「効率性の追求」とは異なるオルターナティヴなどとても見出せそうにない。
役者はみな質が高いし、好演したと思う。ただ、四方を囲むアリーナステージは、観客の体験が拡散するような印象をもった。研究室内のセットや役者の立ち方からするとR側が正面で、私が座ったL側は舞台を裏から見ていると感じてしまう。四方に映し出された映像も効果的だったかどうか。効果といえば、こうした趣向はすべて、オーソドックスな収斂的演劇体験とは異なる在り方、すなわち体験を断片化し拡散する効果はあった。冒頭で宙吊りにされた豊原が頭上から独白したときは度肝を抜かれたが、それと、本作全体のテーマや他の演出上の趣向とがうまく繋がらない(現実から作品世界へ離陸させる効果だけを意図したのか)。断片的な知覚により得られた情報やイメージがひとつの方向に収斂せず、観劇後もバラバラなままだ。これも、観客の全体化的もしくは帰納的志向(思考)を解体することが演出家の狙いなら、成功したといえようが。
海外の劇作家に新作を委嘱できるのは新国立劇場ぐらいだろう。こうした企画は、今回のような(?)リスクもあるが、創造的な化学反応を惹き起こす可能性を秘めている。プログラムを読むと、演出家ジョン・E・マグラーのリハーサルは、日本人の役者にとってはかなり異質で「刺激的な」やり方だったらしい。美術や映像の担当者も同様の報告をおこなっている。いずれにせよ、こうした試みは、その当否を数値(有料入場率)で測ってはならない。成果がすぐに出なくとも、日本の劇場文化を成熟させるためには必要なプロセスのひとつだと信じるべきだ。これに懲りず、ぜひ今後も続けてほしい。