燐光群 創立30周年記念 第一弾 『カウラの班長会議』/歴史と現在を繋ぐ興味深い試み/説明的な台詞が多すぎる

坂手洋二作・演出『カウラの班長会議』の初日を観た(3月8日/下北沢ザ・スズナリ)。

作・演出:坂手洋二
照明:竹林功(龍前正夫舞台照明研究所)
音響:島猛(ステージオフィス)
美術:島次郎
衣裳:宮本宣子
振付:矢内原美邦
舞台監督:高橋淳一
演出助手:城田美樹
文芸助手:久保志乃ぶ
イラスト:三田晴代
宣伝意匠:高崎勝也
協力:浅井企画 
制作:元道広 近藤順子
Company Staff:桐畑理佳 西川大輔 宗像祥子 清水弥生 宮島千栄 根兵さやか 橋本浩明 内海常葉 秋葉ヨリエ


出演
アンソニー・ウォルバーグ(トニー)/オレッグ・ネグレヴィッチ元軍曹/ラルフ・ジョーンズ:John Oglevee
ロバート・アボット(ボブ)/ベンジャミンハーディ:Benjamin Beardsley


日本兵捕虜たち:
鴨川てんし 川中健次郎 猪熊恒和 大西孝洋 水津聡 杉山英之 鈴木陽介 武山尚史 小林尭志 東谷英人 今井淑未 小寺悠介 櫻井麻樹 城田将志 鈴木穣  永戸武士 松田光宏 三宅克幸 山村秀勝


現代の映画専門学校の教師・学生たち:
円城寺あや 中山マリ 松岡洋子 樋尾麻衣子 横山展子 田中結佳 福田陽子 永井里左子 石川久美子 大内慶子 勝田智子 佐次えりな 清水さと 長谷川千紗 布施千賀子 真鍋碧 水野伽奈子 渡邊真衣


2013年都民芸術フェスティバル参加公演
平成24年度文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業)

〝カウラ事件〟を扱った作品。「カウラ・ブレイクアウト」は、1944年8月5日「オーストラリア・カウラ捕虜収容所で、1104名の日本兵捕虜が集団脱走を遂げ、243名の命が奪われた事件」(プログラム)。この歴史をただ演劇的に再現/表象するのではなく、その表象に現代日本の次元も加え、映画専門学校の女性教師と女子学生たちが、ワークショップでこの事件を映画化するという趣向。そこには、高校時代カウラに留学経験のある教師と学生のエピソードが含まれる(背後に如月小春の存在があるらしい)。バラックの捕虜収容所を舞台に、日本兵の捕虜(男)たちと、専門学校の女たち(+オーストラリアの警備兵役を務めるエキストラの在日アメリカ人二名)が、交互に入れ替わり、または同時に共在し、虚構の次元を越境しながら演技を繰り広げる。大詰めで、捕虜の数が増えすぎたことを理由に兵と下士官を分けるための移動命令が下る。「生きて虜囚の辱めを受けず」の戦陣訓を忘れない兵士たちは、これを機に、集団脱走を決断する。事件当日、捕虜たちが戦闘で名誉の戦死を遂げるべく収容所を次々に去った後、現代に切り替わる。いまの若い女性たちが創り出したキャラとして、別の行動が取れないものかとオールタナティヴを探ろうというのだ。いわば歴史のやり直し。ここからは両グループが同時に舞台に現前する。面白いことに、捕虜たちは無闇に脱走せず生きる道を選びはじめるのだが、なぜか突然、彼らを見守る女性たちの携帯に緊急地震速報が入る。すると、生き直しかけた兵士らは、彼女らに、やはり起こったことは元に戻せない、あんたたちは自分のことを頑張ってやれ等と告げ、いまの日本の問題に逢着して幕となる。
二名の白人俳優が舞台に居るだけで日本兵のありようを相対化する効果があった。総じて本作の着想は面白いし、試みとしても興味深い。若い観客を意識した戦時日本の歴史への啓蒙、あるいは、カウラ事件を東日本大震災および福島原発事故後の現在の問題と接続しようとの意図はよく理解できる。だが、休憩なしの二時間半のうち、説明的な台詞(学芸会的発話)の占める時間が余りに長く、少々苦痛だった。この〝説明的台詞〟には、状況説明や歴史的説明のみならず、カウラ事件からわれわれ観客が引き出すべき教訓等も含まれる。舞台に表象された歴史のなかにいかなる問題を読み取るかは、観客の想像力に委ねるべきだ。ここまで明示的に説明されると、客席から思考の喜びが奪われたように感じる。本作はもっと整理すれば一時間半ぐらいに収められたのではないか。前日に観た『長い墓標の列』がドラマとして引き締まっていた所為もあり、そう思わざるをえなかった。