劇団銅鑼『からまる法則』劇団創立40周年記念公演/適材適所の配役/台本と俳優を活かす演出

劇団銅鑼の『からまる法則』初日を観た(2月27日/俳優座劇場)。

作:小関直人
演出:松本祐子(文学座
美術:石井強司
照明:伊藤孝
効果:熊野大輔
衣装:大野典子
舞台監督:稲葉対介
演出助手:柴田愛奈
舞台監督助手:鈴木正昭
イヤホンガイド:鯨エマ
宣伝美術:山口拓三(Garowa Graphico)
制作:田辺素子

キャスト
弓田英明(中学教師):佐藤文雄
川上真理子(弓田の実の娘/弁護士):永井沙織
佐山智幸(医師/真理子の昔の恋人):館野元彦
三国晶子(大学生/「かけはし」代表):土井真波
相馬誠一郎(元会社員/「かけはし」メンバー):井上太
井口正弘(フリーアルバイター):鈴木啓司
矢野典子(中学教師/「かけはし」メンバー):郡司智子
早乙女静子(シスター):菊地佐玖子
住田春治(「かけはし」に保護された人):千田隼生
花山清太郎(生活保護受給者):植木圭
石山次郎(元システムエンジニア):説田太郎
石山勇一(その息子/中学生):野内貴之
間宮信子(近隣住民/町内会役員):谷田川さほ
大島紗枝(区役所環境課の職員):竹内奈緒


平成24年度文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業)

劇団銅鑼の創立40周年記念公演の掉尾を飾るに相応しい舞台。話の状況や舞台セットは永井愛の『こんにちわ、母さん』(2001年)を彷彿させるが、銅鑼らしいテーマで書き下ろされた本作は対話を重視した佳作といってよい。アクチュアリティもある。配役が適材適所で、台本と俳優を無理なく活かす松本祐子の節度ある演出がよく効いている。
川上真理子役の永井沙織は初主演らしいが、とてもそうは見えず好演した。両親の離婚後、母の連れ子として育った真理子は、子供時代に別れた父を訪れたさい拒絶された〝傷〟をいまも負っている。その父が病気だと知らされ、かつて住んでいた家を訪れると、ホームレス支援団体の拠点となっていた。そこに出入りする社会的弱者と彼らを無償で支援する人々。企業の顧問弁護士である真理子は、情や人間関係を最優先させる彼らの生き方に、父へのこだわりも手伝って、強く反撥する。真理子は「からまった」針金ハンガーや延長コードが苦手なように、めんどうな人間関係と関わるのを避けてきたのだ。劇の進行につれて、真理子の父への反感が、ホームレス老人の住田春治等を媒介に、溶解していく。足の悪い住田が長時間かけて買ってきたミッキーマウスの紅いトレーナーに真理子が袖を通す場面が本作の見せ場。父への誤解の解消と共に「かけはし」の活動への理解が深まり、顧問弁護士の立場とは正反対の、過重労働で精神的に追い詰められた労働者(石山次郎)側へと感情移入していく。
俳優たちは、皆いかにも役の職業に見える。永井沙織は負けず嫌いの弁護士に、館野元彦は誠実で頼りになる医師に、土井真波は猪突猛進の大学生でNPOの代表に、郡司智子は元同僚を放ってはおけない中学教師に、菊地佐玖子は俗世間から超然としたシスターに、説田太郎は精神を病んだ元システムエンジニアに、鈴木啓司は元気のよいフリーターに、井上太は管理社会になじめず支援団体に打ち込む元会社員「かけはし」メンバーに、植木圭は身体はマッチョだがこころは清い生活保護受給者に、野内貴之は〝ぐれる〟一歩手前の純な中学生に、竹内奈緒子は区役所の職員に、等々。見事だ。ホームレス老人に扮した千田隼生は、生ぬるく見えがちな〝慈善的空間〟で異物のような身体性を発揮し、舞台に強度を添えた。たとえばあの足の引き摺り方を見よ。さすがに劇団創立メンバー。佐藤文雄も娘とのわだかまりを背負った父親の役を好演した。
ホームレスの支援団体「かけはし」を、川上真理子や近隣住民の間宮信子らが〝現実社会〟の側から相対化する力関係がよい。後者が甘いと、舞台に説得力が生まれない。その意味では、近隣住民(町内会役員)に扮した谷田川さほの独特のキャラクターはそれなりに効いていた。欲をいえば、もっとキャラを立ててもよかったか。
最後は、真理子の両親がその誕生を記念して植えた庭の桜が満開になり、「かけはし」と近隣住民との対立を改善する案が真理子によって提示される。大団円。〝現実の厳しさ〟との距離をあまり大きくしないエンディングが個人的には好みだが、充実した舞台だった。