ミンコフスキ指揮レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル - グルーノブル/聴きごたえのある二つの「未完成」

マルク・ミンコフスキが率いるレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル - グルーノブルの演奏会を聴いた(2月22日/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル)。
このオケは2009年に初来日したが、古楽のイメージとは裏腹によい意味でアバウトというか、とにかく楽しい演奏会だった。
今回は、冒頭にグルックの歌劇『アウリスのイフィゲニア』序曲(ワーグナー編曲)が追加されたが、プログラム本来の趣向は二つの〝未完成〟作品を取りあげるという興味深いもの。

シューベルト交響曲第7番 ロ短調 D759《未完成》
古楽で聴くとやはり新鮮に響く。第1楽章の第2主題ではチェロから自発的に音が出るのを待つような、そんな感じ。第2楽章では第2主題を奏するクラリネット、そしてオーボエ共に、おそらくはできるだけ弱音で吹くよう指示されているのだろう、音が崩壊するぎりぎりのところで吹かれていた。また、弦がゆっくり行進するように歩むなか上声部では管楽器が充溢した強音でオルガンのような響きを奏でる例の呈示部/再現部で、ミンコフスキは大きく円を描くように指揮していた。久し振りに《未完成》を聴いたが、あらためて、じつに精密に作曲された聴きごたえのある作品だと思った。〝歌〟が多い点も好まれる理由だろう。
拍手が止まないため、アンコールとしてシューベルト交響曲第3番 ニ長調 D200 より第4楽章(プレスト ヴィヴァーチェを勢いよく快活に演奏。前半部にアンコールを聴いたのは初めてだ。

休憩後は、モーツァルト:ミサ曲 ハ短調 K427(10名のヴォーカルアンサンブルとともに)。
この音楽も「クレドは未完のまま残され、アニュス・デイは作曲すらされなかった」未完成作品(プログラム)。合唱は10人のヴォーカルアンサンブルのみで受け持つ。みな質が高い。二重唱や独唱の「担当も各声域で1人に固定したりせず、曲によって」適材適所に「受け持つ歌手を変えていく」(木幡一誠/プログラム)。その結果、ソプラノ独唱だけでも、[KIRIE]は正確でシャープな歌声(たぶんアルゼンチン人のMaria Savastano)、[GLORIA]の「Laudamus te」は技巧的には少し甘いが豊かな味わい、[CREDO]の「Et incarnatus est」はキリストの受肉を歌うにふさわしく清らかで、この世とは別次元と思わせる絶唱を聴かせてくれた(たぶんデンマーク人のDitto Andersen)。
アンコールでは「Credo」を再度演奏。ヨーロッパの特にバロックを得意とする古楽アンサンブルによくある洗練された「とろみ」感とはひと味違う、華やかで活き活きした演奏。ミンコフスキは、前回同様、聴衆に出し惜しみしない、気前のよいアーティストだった。