新国立劇場バレエ『ジゼル』(1)初日はドラマティック/二日目はロマンティック

新国立劇場バレエの『ジゼル』を二つのキャストで観た(2月17日/2月20日)。土曜日には三つ目のキャストを観る予定だが、とりあえず二回の公演についてメモする。

音楽:アドルフ・アダン
振付:ジャン・コラリ/ジュール・ペロー/マリウス・プティパ
改訂振付:コンスタンチン・セルゲーエフ
美術:ヴャチェスラフ・オークネフ
照明:沢田祐二
指揮:井田勝大
管弦楽:東京交響楽団
ゲストバレエマスター:デズモンド・ケリー


【2月17日(日)2:00p.m.】
ジゼル:長田佳世
アルベルト:菅野英男
ミルタ:本島美和
ハンス:マイレン・トレウバエフ
クールランド公爵:貝川鐵夫
バチルド:湯川麻美子
ベルタ:西川貴子
村人のパ・ド・ドゥ:竹田仁美 八幡顕光
ドゥ・ウィリ:細田千晶、寺田亜沙子

全体的にドラマティックで、すべての動きがドラマとしての意味を帯びている。デズモンド・ケリーの指導の成果か。長田佳世は狂気の部分は迫真の演技で、舞踊であることを忘れるほど。第2幕でもしっかり踊っていたが、亡霊としてはもっと浮遊感があってもよかったか。トレウバエフのハンスは芝居にメリハリがあり、プロットの進行を明確にした。
第2幕は見応えがあった。ウィリたちの群舞で、例の片足ケンケンで横に移動するシークエンスでは久々に感動した(拍手が出なかったのもよかった)。美しさの粒が揃っている。かといって、外から枠を嵌めたような揃い方ではない。ラストで両袖からすーと去っていく動きなども、本当に亡霊のよう。アルベルト(アルブレヒト)役の菅野英男は相変わらずノーブルで、見せ場のソロも、あくまでドラマのなかでの踊りに徹していた。ミルタ役の本島美和は、ハンスやアルベルトに踊りを要求する際、感情を入れず、クールにやっていた。ケリーの指示なのか。この方がかえって怖ろしい。バチルド役の湯川麻美子はクールランド公爵の貝川鐵夫と共に、恵まれた身体と鷹揚な演技でロイヤルな感触を醸し出し、ドラマを引き締めた。ベルタを演じた西川貴子は、ジゼルの母親としては若干若く見えたが、あり方は見事に母だった。
井田勝大の指揮もドラマチック志向。ただ、dolceの部分はもっと情感を出してもよい。東京交響楽団は管が充実しており、弦も生気がある。第2幕のオーボエのソロが普通に素晴らしかった。ヴィオラのソロも音程が正確。第1幕のペザントのパ・ド・ドゥでフルートのパッセージが少しもつれたように聞こえた。

【2月20日(水)7:00p.m.】
ジゼル:ダリア・クリメントヴァ
アルベルト:ワディム・ムンタギロフ
ミルタ:堀口 純
ハンス:古川和則
クールランド公爵:マイレン・トレウバエフ
バチルド:楠元郁子
ベルタ:堀岡美佳
村人のパ・ド・ドゥ:米沢 唯 福田圭吾
ドゥ・ウィリ:丸尾孝子、厚木三杏

ゲスト二人の佇まいはおっとりしていて、ロマンティックバレエに相応しい。ジゼルのダリア・クリメントヴァは村娘の素朴な味をよく出していた。狂気の演技もやりすぎすベテランらしく自然。アルベルトのワディム・ムンタギロフは育ちの好い貴族(当たり前だが)然として、村娘を誑かすようには感じないほど。誠実な演技と踊り。第2幕のソロでは、素晴らしい踊りを見せた。シャープなキレを有しながら決してこれ見よがしにならない。〝そんなことよりもっと大切なことがある〟とでもいうように。どこまでも貴族としての気品を重視した、透明感のある踊り。いまに世界のスターになるだろう。『白鳥の湖』でもゲスト出演するようだ。とても楽しみ。
ミルタを踊った堀口純は健闘したが、ウィリの女王として、もう少し鷹揚さが欲しい。村人のパ・ド・ドゥで米沢唯は村娘のふっくら感を重視した踊り。例によって音楽との同期は尋常ではない。ハンスの古川和則は、主役の二人とのからみがいまひとつ。ゲストと合わせる時間が限られるので仕方ない面もあるが。アルベルトの従者(ウィルフリード)の輪島拓也は貴族の従者として、一定の気品(様式性)を出さねばならない。初日の田中俊太郎にはそれがあった。ベルタ役の堀岡美香は、演技は悪くない。だが、ジゼル(クリメントヴァ)の母親としては、やはりもっと年上のダンサーにやってほしい。
ゲスト二人の様式が他と異なる上に、その他のキャストの動きがドラマとしていまひとつ不揃いなため、初日のような全体的な統一感は乏しかった。ケリーの指導が初日組ほど行き届かないのか。
音楽はよいと思うが、やはり欲をいえば、部分的にもう少し情感や軽さを出してもよい。この指揮者は意欲も力量もあると思うが、すべてをガシガシ振りすぎるようにも感じた。
ところで、この日の座席は三階の左バルコニーだったため、ジゼルの家も十字架の墓もまったく見えず。『ジゼル』は久し振りのため右側を取るのをすっかり忘れていた。
明日(2月23日)は米沢唯(ジゼル)・厚地康雄(アルベルト)・厚木三杏(ミルタ)が踊る予定。とても楽しみだ。