マリインスキー・バレエ『アンナ・カレーニナ』/ドラマは立ち上がらず単調/タイトルロールに問題が

ラトマンスキーが振り付けたバレエ『アンナ・カレーニナ』を観た(11月22日/東京文化会館)。

音楽:ロジオン・シチェドリン
振付:アレクセイ・ラトマンスキー
音楽監督:ワレリー・ゲルギエフ
装置・衣装デザイン:ミカエル・メレビー
ビデオ映写:ウェンドール・ハリントン
照明デザイン:ヨルン・メリン
台本構想:マルティン・トゥリニウス
振付アシスタント:タチヤーナ・ラトマンスカヤ
台本構想:リュドミーラ・スヴェシニコワ
指揮:アレクセイ・レプニコフ
管弦楽マリインスキー劇場管弦楽団

<出演>
アンナ・カレーニナ:ディアナ・ヴィシニョーワ
アレクセイ・カレーニン(アンナの夫、ペテルブルグの高級官僚):イスロム・バイムラードフ
セリョージャ(アンナの息子):ルスラン・シデルニコフ
アレクセイ・ヴロンスキー伯爵(ペテルブルグの近衛騎兵大尉):コンスタンチン・ズヴェレフ
ヴロンスカヤ伯爵夫人(アレクセイの母):エレーナ・バジェーノワ
エカテリーナ・シチェルバツカヤ公女(キティ、シチェルバツキー公爵の娘):マリーヤ・シリンキナ
シチェルバツキー公爵(モスクワの貴族、キティの父):アンドレイ・ヤコヴレフ
シチェルバツカヤ公爵夫人(キティの母):オルガ・バリンスカヤ
ステパン・オブロンスキー(スティーヴァ、アンナの兄):アレクサンドル・セルゲーエフ
ダリヤ・オブロンスカヤ(ドリー、ステパンの妻でキティの姉):ダリア・ヴァスネツォーワ
コンスタンチン・リョーヴィン(オブロンスキーの友人): レクセイ・ティモフェーエフ
ベッツィ・トヴェルスカヤ公爵夫人(アンナの友人でヴロンスキーの従妹):アレクサンドラ・イオシフィディ
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ステージにコの字型の白壁が設えられ、その壁に、場面によって様々なビデオ映像が映し出される。汽車や競馬場の門等のセットを映像と合わせて巧みに使い、効果的。
シチェドリンの音楽は軋みや摩擦を感じさせる。アンナが家へ戻った場面では(壁にはカレーニンの書斎を思わせる重厚な本棚の映像)ピアノのソロがドメスティックな響きで心地よい。他はほとんど灰色のような重苦しい音楽。やや単調か。オケはさすがに深みのある音色。トランペットのソロは艶やか。
振付は洗練されているが、音楽同様、単調な印象も。原作の主要な出来事をそつなく拾い上げ、トルストイの分身と覚しいリョーヴィンをはじめ、上記のとおり大勢の人物を登場させている。だが、逆に言えば、フォーカスがない。前半に登場する多くの貴族たちが、バレエ(舞踊劇)として、アンナの主筋に収斂することはないし、そもそも今回の舞台でドラマが立ち上がることはなかった。
ヴロンスキー(コンスタンチン・ズヴェレフ)やカレーニン(イスロム・バイムラードフ)は原作のキャラに合ったダンサーで、踊りに見応えがあった。如何せん、タイトルロールのヴィシニョーワはアンナの気品がまったく感じられず、およそ高級官僚の妻には見えない。適役が踊ればもっと深みが出たかも知れないが。ヴィシニョーワは観る者の感情移入に見合う器を有していない。表面的で、見終わったあと何も残らない。
ボリス・エイフマン版の象徴的な演出・振付の好さが際立つ結果になった。彼の振付はある意味、素人くさいのだが、それを大まじめに創り上げるところがよい。
ただし、アンナの気品や葛藤が出せるバレリーナが踊っていたら、ラトマンスキーの振付もシチェドリンの音楽もまったく異なる印象を与えたかも知れない。ロパートキナの日はどうだったのだろうか。