オールニッポンバレエガラ2012/ハイライトは米沢・厚地組/フィナーレの振りにぐっときた

「オールニッポンバレエガラ2012——日本人バレエダンサー達による復興支援チャリティー」を観た(8月15日)。会場:メルパルクTOKYO/主催:オールニッポンバレエガラ2011実行委員会(遠藤康行、西島千博、酒井はな、島地保武、山本隆之、森田健太郎、伊藤範子、志賀育恵、中村恩恵)。
公演の趣旨は前回同様「東日本大震災で被災された地域のバレエ界の復興支援を目的と」し「本会の活動で得られた収益金をその支援原資とする」との由。詳しくは「実行委員会規則」等を参照(Shape Photo Book)。
今回は、前日に横浜公演(Dance Dance Dance@YOKOHAMA2012参加事業/神奈川県民ホール 大ホール)を加えたためか、それとも2年目で当初の復興への切迫感が薄れたせいか、客席は6割ほどしか埋まっていない。開場・開演ともに遅れたが、それでも昨年よりはましだった。ガラの演目構成も、昨年はクラシックとコンテンポラリーの順序に配慮がなされず単調だったが、この点は改善されていた。以下、簡単に、ごく簡単にメモする。

1「ダイアナとアクティオン」グラン パドドゥ 振付:アグリッピーナ・ワガノワ
 西田佑子 八幡顕光

トップバッターとしてまずまずか。

2「シャコタン・ブルー」(新作) 振付:+81
 青木尚哉 柳本雅寛


昨年ほどではないが、やはり面白い。彼らほど身体で自在かつ巧みに対話するダンサーはそうざらにはいない。しかもそこには必ず笑いが生まれる。客席とも対話できるのだ。

3「ラ・シルフィード」より パドドゥ 振付:オーギュスト・ブルノンヴィル
 永橋あゆみ 荒井英之


ジェイムズ役は、もっと溜をつくり、跳躍や足捌きがたとえうまく出来てもけっしてこれ見よがしにならず、スマイルしながら両手を拡げ(デンマークの抱擁)、観客を祝福しなければならない。

4「ON THE STREET」 振付:港ゆりか
 西島千博

ここだけ次元が異なる。彼は踊るより別の才能があるのでは。

5「ブラックバード」より 振付:イリ・キリアン
 中村恩恵

2001年にこの作品の初演を彩の国の小劇場で観た。今回は、舞踏のような感触に惹きつけられた。キリアンは中村の身体性をよく理解して創ったことを再認識。中村の踊りはさすがだなと思わせた。

6「ロミオとジュリエット」より バルコニーのパドドゥ 振付:中島伸欣・石井清子
 橘るみ 黄凱


じつに静かなR&J。橘は怪我をしていたらしいが、今回の振付が本来のものか、それとも急遽、簡略化したものなのかは不明。黄凱を見たのは久し振り。彼の回りには皮膜があり別の世界に生きているかのよう。たたずまいは少女漫画の王子様。

7「Mayday,Mayday,Mayday,This is...2012ver.」 振付:遠藤康
 平山素子 岡田理恵子 金田あゆ子 佐藤美紀 田島香緒理 福島昌美 青木尚哉 大嶋正樹
 吉瀬智弘 八幡顕光 山田勇気 遠藤康

震災・原発事故およびその後の日本にからめていろいろな意味を読みとれそうな作品だが、具体的な解釈は省略。

 ーここで15分の休憩が入ったー

8「魂の優美」(新作) 振付:西島千博
 志賀育恵 西島千博 佐藤健作(和太鼓)

志賀の脚は健在だった。彼女の魅力を引き出した点で西島の振付にも意味があったか。志賀がフォーサイスを踊るのをぜひ見てみたい。

9「ドリーブ スイート」 振付:ジョゼ・マルティネス
 藤井美帆 ヤニック・ビタンクール

藤井は先月の「バレエ・アステラス2012」ほどひどくはない。が、彼女の踊りにはいつもバレエ以外の余計なものが纏い付く。パリ・オペラ座のブランドがそうさせるのか。ビタンクールは難しい振りを優美に踊る。ただ、いつも気の毒になる。

10「こぼれ落ちる鼓動」(新作) 振付演出・出演 小尻健太
 作曲・演奏 カンノケント

小尻の踊りより、カンノケントの演奏と演技(?)に注意が向いた。

11「椿姫」より パドドゥ 振付:小林洋壱
 伊藤範子 小林洋壱


ヴェルディの音楽を声楽なしのオケ版で使用。ただ、振付があまりに古風。いわゆる「椿姫」の作品世界を外側から当て込んで作った感じ。それらしいムードより、自己の内から大胆に作れないか。

12「白鳥の湖」より 黒鳥のグランパドドゥ 振付:マリウス・プティパ
 米沢唯 厚地康雄

米沢の圧倒的な踊りで今回のハイライト。音源の録音レベルの設定ゆえか音が小さかったが、関係ない。5月の全幕時(http://d.hatena.ne.jp/mousike/20120515/1337087553)のように、役を生きるというより踊りに集中し、ある意味いっそう精緻な身体表現が見られた。グランフェッテでは超絶技巧とは裏腹にとても静かな踊り。米沢唯の真骨頂だ。厚地は清潔で華やかな王子として米沢を支えた。

13「3 in Passacaglia」 振付:遠藤康
 小池ミモザ 柳本雅寛 遠藤康


いいと思う。

14「白鳥の湖」より グラン アダージオ 振付:マリウス・プティパ
 酒井はな ヤロスラフ・サレンコ


酒井の踊りは振付の単位が全体のなかに位置づけられていないような印象が。新国立の舞台に継続的に上がっていたら違った踊りを見せてくれたろうに。サレンコはサポートだけではもったいなくないか。

15【福島県より特別参加作品】 「パリの炎」より グラン パドドゥ 振付:ワシリー・ワイノーネン
 佐藤理央 加藤三希央


加藤(15才)は力強さのなかに瑞々しさを感じさせる気持ちの好い踊り。大したもの。ただ、男性ダンサーはサポートがしっかり出来なければどんなに技を磨いても一人前とはいえない。佐藤(14才)もすばらしいテクニックの持ち主でこちらも大したダンサーだ。ただ、ちょっと真面目すぎるかも。二人とも今後が大いに楽しみな逸材である。

フィナーレに入る前、佐藤健作が肩から和太鼓を下げ上手からカーテン前に登場。下手から小尻健太が現れ、太鼓に合わせて即興で踊る。そのあと、カーテンが開き、カンノケントのパーカッションも加わる。最後は、佐藤による大太鼓のソロ演奏。力強い音が腹に響きとても心地よい。

〜出演者全員によるグランドフィナーレ〜


出演者が次々に登場しエルガーの「威風堂々」第1番に合わせ、短いパフォーマンスおよびレヴェランスをしていく。最後に酒井・サレンコ組が登場したのち、全員で手話のような振りをユニゾンでおこなった(音楽はすでに例のMolto maestosoの部分に入っている)。見るとビタンクールもやっている。なぜかぐっときた。出演者全員がなにかひとつのメッセージをわれわれに語っているように見えた。中村恩恵がリードしていたのか。明かに彼女の動きはより深く美しかった。
この実行委員会での公演は今回が最後とのこと。形を変えてまたこうした公演を続けたらどうか。ところで、マクミラン等の古典以外の名作が取りあげられないのは、やはり費用がかかるためか。その分、日本人による振付作品が多く踊られるのは、振付家にとって悪くはないのだが。
プログラムにバレエマスター/ミストレスの記載がないのが少し気になる。被災地のバレエ界復興を支援すべくダンサー達が素手でチャリティ公演を開催するとなれば、そうした先生方からもサポートの申し出があるのは当然だろう。それとも、記載がないだけで、レッスンや本番前の仕上げなどに付き合った教師はいたのか。後者であってほしい。